立山黒部の
開発と観光
富士山と並ぶ、霊峰「立山」。
その主峰雄山の直下を貫いて富山県と長野県をひとつのルートで結ぶ「立山黒部アルペンルート」は1971年6月に全線開業しました。「立山黒部アルペンルート」建設の始まりは、1952年、富山県が産業経済発展のため、大規模な開発計画を策定したことが発端でした。まず手始めに立山駅から美女平間のケーブルカーと、美女平から室堂間の山岳道路建設が計画され、1952年12月に、立山駅から美女平間のケーブルカー工事が始まりました。
立山駅から美女平駅まではわずか1.3キロの区間でしたが、大きく湾曲した複雑な線路設計が必要で、それだけで1年余りの期間を要しました。1954年8月に開通し、次いで立山駅舎が完成しました。
立山ケーブルカー工事にあわせ、富山市内からの電車の延伸工事も始まりましたが、立山駅手前にある真川橋梁の完成が遅れたため、真川左岸には「立山仮駅」という名の臨時駅が開設されました。そして1955年、真川橋梁の完成により、いよいよ富山市内から立山駅へと線路がつながりました。
1953年に着工した高原バス道路建設は、1955年に美女平から弘法間でバス営業を開始しました。
当時、麓から美女平まではまだ道路がつながっていなかったため、バスは立山ケーブルカーに連結した貨車に載せ、運び上げていました。
高原バス道路は、その後も弘法から先へ工事が進み、現在も途中乗降駅として利用されている弥陀ヶ原、天狗平へと延び、1964年6月、ようやく室堂へ到達し、標高差約1500メートル、全長23キロメートルの全線でバス営業が開始しました。
1964年、扇沢から黒部湖間の関西電力のトロリーバスが営業を開始し、全線開通に向けて残すところは、室堂から黒部湖までの区間となりました。当初、室堂から黒部湖までを全線自動車道路とすることが計画されており、約4年かけて、気象観測や測量などの調査が行われました。しかし、急峻な山岳地帯での工事の困難さ、膨大な建設費用、自然保護・環境保全対策など様々な問題があり、最終的にトンネルバス、ロープウェイ、ケーブルカーの3つの乗り物で繋ぐことが決定しました。
黒部ケーブルカーは、自然保護と雪害防止の観点から全線地下式トンネルとし、1966年3月に掘削工事が始まりました。断崖絶壁の工事現場で、必要な資材や機材はロープウェイ(索道)や大型ヘリコプターで運ばれていました。そして、黒部平駅舎が完成すると巻き上げ機が設置され、1969年7月に黒部ケーブルカーの開通式を迎えました。
この一帯は雪崩や落石が頻発する場所で、標高2,316メートルの断崖絶壁の上が唯一安全な場所として選ばれ、大観峰駅舎が建てられました。立山ロープウェイは、環境保全と雪崩や落石を避けるため、途中に1本の支柱もない日本初のワンスパン方式が採用され、長さは1,710メートルあります。建設当時、法律の上限を超える長さでしたが、特別認可を受けて設置されました。この長さを可能にした高性能ロープはこのロープウェイ建設のために開発されたもので、直径が5.4センチメートル、重量が28トンもありました。立山ケーブルカーでは運べず、トレーラーを使い、関電トンネルと黒部ダム堰堤上を通って運び込まれました。そして、1969年12月の猛吹雪の中、試運転が行われ、1970年7月にロープウェイの営業運転が始まりました。
1966年4月に始まった室堂と大観峰間の立山トンネルの掘削工事は、室堂側と黒部ダム側の両方から進められましたが、その途中で何ヶ所もの「破砕帯」に遭遇しました。「破砕帯」とは湧水の異常出水や崩落発生の危険を伴う軟弱な地層です。毎分63トンにもおよぶ摂氏2.5度の水が濁流となってトンネル内を走り、工事は何度も中断しましたが、破砕帯を迂回したり、薬液を注入し固めたりしながら、掘削作業が続きました。難工事の模様は、実際このトンネルを通ってみると感じることができます。設計上の2箇所の大きなカーブの他に、僅かに緩く迂回するポイントが3箇所あります。この緩い迂回カーブはいくども現れた破砕帯を微妙に避けながら、懸命に工事を進めた結果なのです。そして1969年12月、延長3.7キロメートルの立山トンネルがようやく貫通し、盛大に貫通式が行われました。トンネル貫通から2年後の1971年4月、立山トンネルバスが営業を開始しました。
その後、立山高原バス道路の除雪完了した1971年6月、ついに立山黒部アルペンルートが全線開通しました。1952年に立山ケーブルカーの工事を開始してから、およそ20年の時が経過していました。
そして全線開通の翌年8月には室堂ターミナルが全館完成し、9月には標高2,450メートルの日本最高所にある宿泊施設としてホテル立山がオープンしました。この室堂ターミナルは駅舎やホテルとしての機能だけでなく、救護避難所といった公共的な施設としての側面も持っており、立山黒部アルペンルートを利用する方や登山者などの安全確保に努めています。